2017年8月に非常に大きな注目を集めながら行われたビットコインのハードフォークで、分裂・誕生したビットコインキャッシュですが、さらに2018年11月にハードフォークを行いビットコインSVとビットコインABCへの分裂が行われました。
分裂の際にハッシュウォーと呼ばれる2つの組織の対立があり、紆余曲折の末にビットコインABCがビットコインキャッシュを継承したため、ビットコインSVは独立した通貨銘柄として流通しています。
新通貨として注目されるビットコインSVに焦点をあて、特徴やビットコインABCとの相違点、ビットコインSVの将来性などを紹介します。
ビットコイン SV(BSV)とは?
2017年 8月のビットコインのハードフォークで生まれたのがアルトコインのビットコインキャッシュですが、発表から約1年4ヶ月経過した11月にビットコインキャッシュはさらにハードフォークを行い、そこで誕生したのがビットコイン SVです。
開発者 | クレイグ・ライト |
通貨単位 | BSV |
アルゴリズム | Proof of Work(PoW) |
発行上限 | 21,000,000 BSV |
発行数 | 17,854,986 BSV(約85%発行済) (2019年9月現在) |
ビットコイン理論を打ち立てたナカモト・サトシ氏のビジョン体現の意思が込められたSatoshi's VisionがビットコインSVの由来で、ビットコイン本来の姿を進化させた通貨銘柄であることを意味しています。
スケーラビリティ問題の対策を巡りハードフォークによって2017年8月にビットコインから分裂し、ビットコインの8倍のブロック容量を持たせることを目的に誕生したのがビットコインキャッシュですが、アップデート方針に対してクロスチェーン実装で通貨間の互換性向上を主張する側と、さらなるスケーラビリティ問題解決を唱える側の対立でさらに2つに分裂しました。
ビットコインからビットコインキャッシュへの分裂を先導したのがビットコインSVの開発者であるクレイグ・ライト氏で、同氏は取引高の増大で生じるスケーラビリティ問題の解決を非常に重要視していると言えます。ビットコインキャッシュは8MBのブロック容量を持ち、その後32MBまで容量アップしましたが、さらに128MBまでの増量を主張しビットコインSVを開発しました。
2019年9月24日現在ビットコインSVの時価総額は217,359,247,655円、市場価格は1BSV=12,173.59円で、仮想通貨時価総額ランキングサイトCoinMarketCap内では第9位にランキングされています。
クレイグ・ライト氏とは?
ビットコインSVの開発者であるクレイグ・ライト氏は1970年にオーストラリアのブリスベンで生まれ、現在はイギリスに居住するコンピューター科学者です。「ビットコイン理論の論文をナカモト・サトシ名義で発表したのは自分である」と主張し、2019年4月 にはビットコインのホワイトペーパーの著作権を登録 しています。
米国著作権登録番号 | TXu 2-136-996 |
発効日 | 2019年4月11日 |
論文 | ビットコイン:ピアツーピア電子現金システム(Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System) 発表/2008年 |
著者 | Craig Steven Wright |
米国著作権登録番号 | TX-8-708-058 |
発効日 | 2019年4月13日 |
著作物 | ビットコインと題されたコンピュータプログラム(computer program entitled Bitcoin) 初版発行日/2009年1月3日 |
著者 | Craig Steven Wright (クライアントソフトウェアのバージョン0.1の大部分) |
政府や中央銀行の介入を受けない非中央集権的な世界共通通貨を目指してビットコインを開発し、スケーラビリティ問題解決のために分裂したビットコインキャッシュを支持したものの、アップデートによって本来のビットコイン理念からの乖離を感じ、ビットコイン SVを開発したと語っています。
クレイグ・ライト氏はかなり個性的でトリッキーな部分が強いとも言われており、同氏に対する賛否は激しく対立しているのも事実です。確かにビットコインキャッシュから共に分裂したビットコインABC陣営のロジャー・バー氏に対し、非常に挑戦的なメールを送付するなど注目を集める行為が目に付くのも事実です。
また、2019年8月2日には自身のブログで「ビットコインに関係する全ての嘘はすぐに終了する」と発信するなど話題に事欠かない人物であり、同氏の発言は仮想通貨市場に対して少なからず影響力を持っていることは事実ですので今後の動向から目が離せない人物であるのは確かだと言えるでしょう。
ハッシュウォーとは?
ハッシュウォーはビットコインABCとビットコインSVの間でビットコインキャッシュのメインストリートを巡って繰り広げられた主導権争いで、マイニングコストを度外視した敵対的ブロック形成の攻防が行われました。
敵対的ブロック形成が行われたのは「チェーン分岐の発生時にはより長いチェーンを採用する」というブロックチェーンのシステムに起因しており、ビットコインキャッシュのチェーンをビットコインABCとビットコインSVのどちらが継承するかが争点となりました。
激しい攻防が繰り広げられた影響でビットコインをはじめとする全ての仮想通貨銘柄の市場価格が下落し、仮想通貨史上最悪の月間下落率を記録するなど仮想通貨に対する信用の根幹を揺るがすほどの大きな悪影響を及ぼしました。
ハッシュウォーの攻防のなかでビットコインABC側はチェーン形成を促すために、大量のコンピュータパワーをレンタルド・ハッシングで投入し支配的なチェーンを形成した後にレンタルド・ハッシングを引き上げました。
これに対しアメリカのブロックチェーンシステム開発企業であるUnited American Corpは「民主的・分配的・分散型なブロックチェーンネットワークの価値と完全性を否定し、中央集権機構としてブロックチェーンやネットワークを独占、レート操作を行った」としてビットコインABC側の開発者を提訴する などハッシュウォーは泥沼の様相を呈します。
しかしビットコインSVがトランザクションIDの付与などで、正規のトランザクションの選別を行う(分裂したシステムが別々であることを認識する)技術であるリプレイプロテクションの導入を宣言したことでハッシュウォーは終結に向かいます。
ビットコインSVがリプレイプロテクションの導入を宣言したことで、ビットコインキャッシュの名称や通貨単位はビットコインABCが継承することとなり、ビットコインSVは完全にビットコインキャッシュから分裂・独立した通貨銘柄として運営され始めます。
ビットコインABCとは?
ビットコインSVとの間で激しく繰り広げられたハッシュウォーの末に、ビットコインキャッシュを継承したのがビットコインABCです。ビットコインキャッシュの名称や通貨単位を全て継承したため、現在ビットコインABC自体は存在せずビットコインキャッシュ(BCH)として流通しています。
既に紹介したとおり2018年11月のハードフォークはアップデートの方針に対する見解の相違によって引き起こされ、ビットコインキャッシュに拡張機能を搭載し仮想通貨間の互換性を持たせる形への進化を主張した派閥によってビットコインABCが開発されました。
ビットコインABCのブロックサイズは32MBに設定され、スケーラビリティ問題に対してはスケーラビリティとセキュリティの向上につながる実装だと考えられるデジタル署名の一種Schorr signature(シュノアシグネチャー)とその署名データの一部を保存するためのSegwit recovery(セグウィットリカバリー) で対応しています。
ブロックサイズの上限調整が可能という意味のAdjustable Blocksize Capに由来するビットコインABCは、スマートコントラクトに代表される拡張機能を実装し自在に進化する通貨銘柄であることを意味していると言えるでしょう。
ビットコインABCの開発陣にはビットコインキャッシュを開発したロジャー・バー氏やマイニング事業などを手広く手掛け2017年8月のビットコイン分裂に大きな影響を与えたジハン・ウー氏などが名を連ねています。
ビットコインキャッシュとして通貨単位BCHを継承した現在、ビットコインABCの時価総額は565,197,001,304円、市場価格は1BCH=31,364.42円で、仮想通貨時価総額ランキングサイトCoinMarketCap内では第4位にランキングされています。
ビットコインABCとビットコインSVの違い
スマートコントラクト機能に代表される拡張機能の実装を行うビットコインABCに対して、無駄な拡張機能を搭載せずシンプルに本来の仮想通貨のあるべき姿を体現しようとしているのがビットコインSVの相違点だと言えるでしょう。
既に紹介したとおり、ビットコインキャッシュの分裂原因はクロスチェーン実装で通貨間の互換性向上を主張する側とさらなるスケーラビリティ問題解決を唱える側の対立によって引き起こされています。
共にアルゴリズムはPoWを採用しているものの、ビットコインABCはプロジェクトエントランスを増加させることで通貨間の互換性向上を行うビジネス対応銘柄で、ビットコインSVはシステム維持を行うマイナーに寄り添う通貨であると考えられます。
またハードフォークが行われる以前のビットコインキャッシュはマイニング難度が高く大きな資本力を持つ有力マイナーが主導権を握るのではないかという懸念がありました。分裂後のビットコインABCは開発者が自由に拡張機能を実装することができるため、中央集権的な要素が強くなるのではないかと言われています。
対照的に非中央集権的なビットコイン理論の継承を目指して開発されたのがビットコインSVですのでビットコインABCとは 基本理念が大きく異なると考えられますが、マイニングプール内で大手マイナーが占める割合が高く、開発者の意向が強く反映される傾向にあることから中央集権からの脱却が行えていないとも考えられます。
ビットコインの後継コインとしての立ち位置を目指す通貨銘柄が数多く登場してくるなかで、課題が残されてはいるものの射程距離に収まる位置にあるのはビットコインSVだと考える声も存在しています。
ビットコインSV(BSV)の将来性
ビットコインSVの今後の値動きに対してはいささか不透明ではあるものの、ビットコインSVの掲げる本来仮想通貨があるべき姿の体現がマーケットから高く評価されていることなどから、他の通貨銘柄と連動しながら推移していくのではないかと考えられます。
2019年9月24日現在CoinMarketCapの時価総額ランキングではビットコインABC(ビットコインキャッシュ)が第4位、ビットコインSVは第9位にランキングされていますが、約2,400銘柄近い仮想通貨が存在する現在トップ10圏内にランキングされていることは非常に価値が高いと言えるでしょう。
既に紹介したとおりビットコインSVの開発者であるクレイグ・ライト氏は、自らをビットコイン開発者であると名乗るほどビットコイン理論には強いこだわりがあり、スマートコントラクトなどの拡張機能の実装を良しとしていないと考えていると判断できます。
しかしマイニングプールの独占に近い状態やクレイグ・ライト氏の意向が強く反映される現在のビットコインSVは中央主権的な運営が行われているという側面もあり、ビットコイン理念を忠実に再現しているとは言い難いと感じる方も少なくないようです。
今後のアップデートによって非中央集権的な運営へと舵を切ることができれば、シンプルなビットコインSVは「本来仮想通貨のあるべき姿」を体現する理想的な通貨銘柄としてさらなる発展が期待できるのはないかと考えられます。