金融商品の取引を行う上で、重要になるのが「損切り」のタイミングです。

 

しかし、損失が出ている保有商品をためらいもなく売却できる投資家は少ないでしょう。

 

そこで今回の記事では、損切りと同様の効果が得られる「ヘッジ取引」の手法について解説していきます。実際の取引例についても紹介しますので、ぜひ取引の際の参考にしてください。

 

金融取引において「損切り」は必須

 

金融市場は、時に予想できないような変動を見せることがあります。相場の急変によって損失が出た場合は、「損切り」を行うこともひとつの方法。まずは、その「損切り」について詳しく解説していきます。

 

そもそも「損切り」とは?

 

損切りとは、保有している金融商品に含み損が出た場合に見切りをつけて売却をすることです。

 

下落している商品をそのまま保有していると、さらに損失幅が広がる場合もあるため、早々に損切りを行うことで損失額を最低限に抑える効果があります。

 

損切りを行わないとどうなる?

 

損切りが難しいのは、「少し待っていれば相場が回復するかもしれない」という期待があるためです。しかし、下落し続ける相場で商品を保有し続けていた場合、損失額はどんどん膨らんでしまいます。

 

もしFXなどでレバレッジをかけていた場合は、さらにその損失額は大きいものとなるでしょう。

 

損失が発生した当初の段階で、早々に損切りを行っていれば、そうした最悪の事態を免れることができるのです。ただし、日々変動する相場において、早々に損切りの判断を下すのはプロの投資家でも難しいことです。そこで有効な手段となるのが「ヘッジ取引」。次の項目で詳しく確認していきましょう。

 

「ヘッジ取引」を身につけよう

 

ここまで、金融取引における損切りの重要性を解説してきました。しかし、損失を確定させる損切りは、多くの人にとって簡単なものではありません。そこで、「ヘッジ取引」の活用をおすすめします。

 

ここからは、ヘッジ取引の仕組みや実際の活用例を解説していきます。

 

「ヘッジ取引」とは?

 

ヘッジ取引とは、先物・オプション取引を活用して、現物と反対のポジションを保有することです。この場合新たに追加する商品は、保有している商品と同じ銘柄でもいいですし、違う銘柄でもOKです。

 

大切なのは、相関性の高い商品を選ぶことです。

 

同じように値動きする可能性が高い商品の売り・買いポジションを同時に保有することで、相場が急変動した際もリスクを低減する効果が得られます。また、ヘッジ取引には「売りヘッジ」と「買いヘッジ」の2種類の取引があります。

 

売りヘッジ

 

売りヘッジは、価格の下落が見込まれる場合に行うヘッジ取引です。現在保有している金融商品の価格が下落しそうな場合に、反対の売りポジションを建てます。

 

その後、実際に価格が下落しても売りポジションで利益が得られるため、最初に保有していた現物の含み損を薄める効果が得られるのです。

 

買いヘッジ

 

買いヘッジは、価格の上昇が見込まれる場合に行うヘッジ取引です。「将来現物を購入する予定があるけれど価格が上昇してしまいそうだ」というときに、先物を活用して買いポジションを建てます。

 

先物であらかじめ購入する価格を決めておくことで、商品の値上がりリスクを抑えられるのです。

 

また、実際に商品価格が値上がりしたとしても、先物取引で利益を得ているため、現物の購入価格に資金を充てられる効果もあります。

 

では、実際の相場を見ながらヘッジ取引をどのように活用するのか確認していきましょう。

 

ヘッジ取引の例①NYダウと日経平均株価

日経平均とNYダウのチャート

SmartChartPLUSより

 

まずは、NYダウと日経平均株価を例に見ていきましょう。上記のチャートは、紺色がNYダウ、オレンジ色が日経平均株価を示しています。

 

日経平均株価の値動きは、米国を代表する株価指数NYダウに連動する傾向にあります。実際に上記のチャートを見ると、変動のタイミングには相関性があることが分かりますね。

 

もし、日経平均先物の買いポジションを保有している場合、NYダウの売りポジションを建てておくことで、値下がりによるリスクを低減する効果が得られます。

 

このように、日本株の値下がりに対するリスクヘッジのために、NYダウの売りを仕込んでおくという手法は、実際に機関投資家も行っているヘッジ取引です。

 

ヘッジ取引の例②国内大型株と日経平均株価

 

日経平均株と国内大型株のチャート

SmartChartPLUSより

 

次に、国内大型株と日経平均株価のヘッジ取引を見ていきましょう。

 

上記のチャートは、紺色がファーストリテイリングの株価、水色が日経平均株価を示しています。ファーストリテイリングは株価が6万円(2022年4月30日現在)を超える大型株であるため、その変動は日経平均株価にも大きな影響を与える銘柄です。上記のチャートを見てみると、2つの値動きには相関性があることが分かります。

 

たとえば、ファーストリテイリングの現物を保有している状況で、大きく株価が下落したとします。その後、なかなか株価の上昇が見込めない相場環境である場合、通常であれば損切りを検討することとなります。

 

そこで、損切りをせずにヘッジ取引をするとなれば、日経平均先物の売りポジションを建てることになります。もしも株価が下落し続けて現物の含み損が広がった場合でも、先物で利益が得られるため、損失をカバーする効果が得られるのです。

 

このように、「損切りをしたいけど、なかなか踏ん切りがつかない」という場合には、相関係数の高い銘柄の反対ポジションを仕込むことが有効なリスク回避の手段になります。

 

ヘッジ取引の例③国内中小型株と東証マザーズ指数

 

国内中小株とマザー指数のチャート

SmartChartPLUSより

 

最後に、国内中小型株と東証マザーズ指数を例に見ていきましょう。上記のチャートは、紺色がメルカリの株価、水色が東証マザーズ指数を示しています。

 

メルカリは個人投資家にも人気が高く、東証マザーズ指数への寄与度も高い銘柄です。上記のチャートを見ても、東証マザーズ指数と相関性があることが確認できるでしょう。

 

この場合も、「ヘッジ取引の例②国内大型株と日経平均株価」と同様に、反対のポジションを建てるヘッジ取引が有効です。

 

ただし、中小型株のヘッジ取引で気を付けたいのは、マザーズ指数との相関性です。マザーズ指数の構成銘柄には上場から間もない新興企業も多く含まれるため、時価総額の規模によってはマザーズ指数との相関係数が低いものもあります。

 

相関性が低い銘柄でヘッジ取引を行ってしまうと、最悪の場合どちらのポジションでも含み損が発生することが考えられます。ヘッジ取引はリスクを抑えるための手法であるのにもかかわらず、銘柄選びを間違えて損失が広がってしまっては本末転倒です。

 

したがって、中小型株でヘッジ取引を行う際は、相関係数の高い銘柄を選ぶこと、もしくは同じ銘柄で両建てを行うようにしましょう。

 

まとめ

 

この記事では、損切りと同様の効果が得られるヘッジ取引の手法を紹介してきました。金融商品の取引を行ううえで、損切りは必要不可欠な判断です。しかし、損失が発生している銘柄をためらいなく売却できる人はそう多くはないでしょう。

 

そこで有効な手段となるのがヘッジ取引です。ヘッジ取引は、含み損が出ている銘柄と反対のポジションを保有することで、損切りを行うことなくリスクを低減する効果が得られます。「含み損が膨らむことは避けたいけど、なかなか損切りを決心できない」という方は、ぜひヘッジ取引を活用してみましょう。

 

記事の監修者

中島翔

中島 翔

学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。その後国内大手仮想通貨取引所Coincheckでトレーディング業務、新規事業開発に携わり、NYのブロックチェーン関連のVCを経てCWC株式会社を設立。証券アナリスト資格保有 。

Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12



おすすめの記事