為替相場はその価格決定要因や相場変動の仕組みについて、様々な理論が打ち出されています。その中で「購買力平価説」という有名な為替理論があります。
この記事ではその購買力平価説についての解説、また購買力平価説が実際の為替取引に活用できるかについて解説していきます。
購買力平価説とは
購買力平価説とは、スウェーデンの経済学者カッセル氏によって提唱された長期にわたる為替レートの決定理論です。
詳しくは後述しますが、購買力平価説とは「ある通貨の購買力は他の国の通貨においても等しい水準となるように為替レートが決定される」という考え方を説いたものです。
具体的な例で言うと、1米ドル=100円とした時に日本で100円で買えるものは、アメリカでは1ドルで買えるはずである、つまり1ドルと100円は等しい購買力(=購買力平価)であるはずだという考え方です。
この購買力平価説には「絶対的購買力平価説」と「相対的購買力平価説」の2つの考え方が提唱されています。ここからはそれぞれの購買力平価説について解説していきます。
絶対的購買力平価説
絶対的購買力平価説とは、為替レートは2ヶ国間の通貨の購買力によって決定されるという考え方です。
たとえば日本で500円で買えるモノが、アメリカでは5ドルで売られているとします。2ヶ国の通貨の購買力は等しくあるはずなので、為替レートは1ドル=100円が妥当であるというものです。
この絶対的購買力平価説は「一物一価の法則」から成り立っている考え方ともいえます。一物一価の法則とは、国や通貨が違ったとしても同じモノに対する値段は等しくなるはずだという考え方です。
ただし実際のモノの値段は、2ヶ国間の物価の違いや、モノを貿易する際の関税や輸送コストなど様々な要因を考慮して決定されるため、購買力だけで為替レートを決定づけるのは難しいといえるでしょう。
相対的購買力平価説
一方、相対的購買力平価説とは、2ヶ国間の為替レートはインフレ率の格差によって決定されるという考え方です。
モノの値段である物価は、その国の景気や需給の関係から常に変動しています。私たちの生活で考えてみても、バターやパンの値段が上がったり、ガソリンの値段が高くなったりすることで、物価の変動を実感する場面があるでしょう。相対的購買力平価説とは、為替レートを決定する際にこの物価の変動率を考慮しなくてはいけないと説いたものです。
分かりやすく具体的な例で考えてみましょう。
日本のインフレ率を1、アメリカのインフレ率を5とします。アメリカは日本の5倍モノの値段が上がっているため、米ドルは日本円に対して価値が減少していることになります。為替レートを決定する際はそのインフレ率を考慮して、米ドルは日本円に対してインフレ率分下落すべきだというものです。
相対的購買力平価説は「基準時点の為替レート×A国の物価指数÷B国の物価指数」の計算式で求めることが出来ます。この「基準時点の為替レート」とは「政治的圧力がなく自然に為替取引が行われていたときの為替相場」をさします。ドル円では1973年4-6月期の平均である1ドル=265円が基準時点の為替レートとして採用されています。
現在購買力平価説を考える際には、この相対的購買力平価説が主流の考え方となっています。ただし絶対的購買力平価説と同じように、モノの値段はインフレ率だけでは決定できないため、実際は為替レートの決定において万能な考え方であるとはいえないでしょう。
購買力平価説の実例
購買力平価説を活用した例として、有名なビッグマック指数が挙げられます。ここからはそのビッグマック指数について解説していきます。
ビッグマック指数とは、世界的な経済誌『エコノミスト』が、年に2回発表している経済指標です。
マクドナルドは世界100か国以上でチェーン展開している誰もが知るグローバル企業です。マクドナルドは国や地域によって様々なメニューが揃えられていますが、ビッグマックはどの国でも同じような材料と味付けで販売されています。どの国でも同じモノが売られているのであれば、各国のビッグマックの値段を比較することで適正な為替レートや物価水準がはじき出せるはずだというものです。
しかし実際はビッグマックの値段にも関税や輸送費用などが考慮されるはずであるため、ビッグマック指数にはその点が反映されていないといえるでしょう。
また同じようなものにスターバックス指数があり、これはカフェラテのトールサイズの値段から適正な為替レートが計算されるものとなっています。
購買力平価説はFX取引で活用できるか
2ヶ国間のモノの値段から為替レートを算出する購買力平価説ですが、実際のFX取引において活用することは可能でしょうか。ここからは実際の為替相場における購買力平価説の有効性について解説していきます。
短期トレードには向かない
為替相場と購買力平価は、短期的な視点では有効性が認められない場合もありますが、長期間で捉える際にはある程度の有効性があるのが特徴的です。
その一方で、購買力平価説は短期的な為替相場おいて有効なアプローチ方法であるとはいえません。なぜなら短期的な為替相場では、要人の発言や経済指標の発表などによってボラティリティが大きくなることがあるためです。
つまり短期的な為替相場では購買力平価説が示す2ヶ国間のモノの値段の推移よりも、目先の経済情勢やファンダメンタルズが重要視されるのです。
長期間でのポジション保有において活用可能
購買力平価説と為替相場の相関性を長期的に見た場合、ある程度調整を行いながら購買力平価が適正とする価格へ収斂していくことが考えられるといえるでしょう。
ただし為替レートはモノの値段だけでなく、2ヶ国の金利差や経済情勢、地政学的要因などを加味して変動するため、購買力平価説だけを参考にFX取引を行うことは勧められません。FX取引を行う際には、購買力平価説を為替相場の変動要因のひとつとして知っておくと良いでしょう。
まとめ
購買力平価説とは「ある通貨の購買力は他の国の通貨においても等しい水準となるように為替レートが決定される」という考え方を説いたものです。購買力平価説には「絶対的購買力平価説」と「相対的購買力平価説」の2つがありますが、現在は相対的購買力平価説が主流の考え方として扱われています。
モノの値段から適正な為替レートを導く購買力平価説ですが、モノの貿易にかかる関税や輸送コスト、その他価格の変動要因が考慮されていないことが欠点であるともいえます。
そのためFX取引の短期トレードで購買力平価説を参考指標とすることは難しいといえるでしょう。ただし長期的な目線では概ね購買力平価説が示す為替レートへ収斂していくことが期待されるため、長期トレードの際に参考とする指標のひとつになり得るかもしれません。